ジャズは ダイバーシティが創造したクリエイティブな音楽と言われている一方で
『差別』と『葛藤』によって創造され進化していって『差別』によって衰退していった音楽
と考えてもいいかもしれません
ジャズの歴史を振り返ると『外部環境の変化』『ジャズメンの意識変化』『ジャズ・ファンの意識変化』によって【進化】と【衰退】を繰り返してきたのですが どうしても切り離れられないのが【アメリカの人種差別】が作り出している それぞれの立場の『潜在意識』です
日本型経営企業で『D&I戦略』がスムーズにいかずに イノベーションにつながっていないことは この『潜在意識』という目に見えない大きな壁が邪魔している気がしてなりません
そこで 今回は『潜在意識』の視点から『D&I推進戦略』の懸念点を考察します
ジャズにおけるイノベーションの源泉は『多様性』と『葛藤』
ジャズ創成期
20世紀初頭にニューオリンズで 楽器を手にしてたブルースをベースにした黒人が ジム・クロウ法 で『差別』されるようになった 西洋音楽の素養を備えてた クレオール の存在があったらかこそジャズが創造されました
【ジム・クロウ法】: 1870年代から1960年代までアメリカ南部における、州・郡・市町村レベルでの人種隔離をする規則と条例 (一滴でも有色人種の血が流れているのであれば有色人種とみなす)
【クレオール】:白人(主にフランス人とスペイン人)と黒人の混血
音楽教育を受けたことがない(楽譜が読めない)黒人に 音楽の基礎知識を持っている(楽譜が読める)クレオールが【ゲートキーパー】として機能したことは重要なポイント
1917年 最初に録音されたジャズ
ニューオーリンズ出身の【白人】5人組バンド オリジナル・ディキシーランド・ジャズ・バンド だったといわれています
この録音によって ジャズは白人社会 に広がっていきます
しかし当時は 演奏者の違いだけで 呼び方は区別されていました
✅ 白人によって演奏されたものを『ディキシーランド・ジャズ』
✅ 黒人系によって演奏されたものを『ニューオーリンズ・ジャズ』
この区別は 白人社会の発想 『差別』の現れと考えられます
【スゥイング・ジャズ】~【ビバップ】
【スゥイング・ジャズ】は 1930年代~1940年代初頭にかけて大流行した 【白人社会】が主体になって作られた大人数編成のジャズです
【ビバップ】は 【スゥイング・ジャズ】の「楽譜通りの演奏」への『反動』から 【黒人社会】が主体行われた【ゲーム・チェンジ】と【ルール・チェンジ】の大きな『革命』です
筆者はジャズの愛聴者ではありますが 演奏者でないので【ビバップ】の詳細の解説は出来ませんが
【ビバップ】は チャーリー・パーカーやデイジー・ガレスピーを代表格とする人並外れた技術と才能を備えた黒人ジャズメンが 最新の音楽理論の知識と融合させて 長いソロ・パートと難解で豊かなハーモニーで定義された新しいタイプの『即興演奏』を中心にした新しく創造したジャズ
【ビバップ革命】と呼ばれているほどの『大きな変革』だったんです
【ビバップ】~【クール・ジャズ】
熱狂的な【ビバップ】の反動として クラシック音楽の語法やテクニックを取り入れて 音を控え目に使い 抒情性を重視した『夜の都会の癒しの音楽』と思える【クール・ジャズ】(by マイルス・デイヴィス)が創造されます
この【クール・ジャズ】は 西海岸の【白人】ジャズメンに影響を与え【ウエスト・コースト・ジャズ】として拡大していきました
【ウエスト・コースト・ジャズ】~【ハード・バップ・ジャズ】
【白人】主体の【ウエスト・コースト・ジャズ】への反動から 【黒人】主体の【ビバップ】への揺り戻しと思える【ハード・バップ・ジャズ】へ
【ハード・バップ・ジャズ】~【モード・ジャズ】
【ハード・バップ・ジャズ】の閉塞感から マイルスの名盤『Kind of Blue』に代表される コード進行よりもモード(音階)を用いて演奏される【モード・ジャズ】が創造されました
新しいジャズ・スタイルでの旋風が巻き起こるのかと思わせましたが 音楽の主役は【ロックロール~ロック】に変わっていきました
【モード・ジャズ】~【フリー・ジャズ】そして【アコースティック・ジャズ】衰退
【フリー・ジャズ】以降の【アコースティック・ジャズ】衰退に関しては 次回以降に詳細を論じることにしますが
【フリー・ジャズ】は マルコム・X キング牧師が主導した『黒人の権利意識の向上』『公民権運動』と連動していました
【フリー・ジャズ】に傾倒していった ジョン・コルトレーンは当時の過激な黒人指導者と同じ影響力を黒人社会にもっていました
ダイバーシティ豊富な環境では クリエイティブやイノベーションが創造されやすいことは事実ですが そこには様々な コンフリクト(葛藤)を誘発しやすい環境になることも事実 ということをジャズが証明してくれています
イノベーションにはダイバーシティと創造的摩擦の促進は不可欠
潜在意識が多様性の受入れを阻む
【潜在意識】:自覚されることなく活動する意識 また、意識内での強い禁止によって自覚面に現われることができない意識。半意識。
精選版 日本国語大辞典
目には見えないけれど 誰もが持っているココロ(脳)には 五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)を通じて体感したこと 過去の経験で無意識のうちに蓄えられた『価値観』『習慣』『思い込み』から形成された自覚していない意識があります
これが【潜在意識】です
人は毎日 ココロ(脳)全体の95%にあたる “あなたの知らないあなたの意識” である【潜在意識】で 無意識に多くの【情報を習得し処理する力】となり【習慣化する働き】になっています
【アンコンシャス・バイアス】:誰もが無意識に持っている偏見や差別は 完全に取り除くことは不可能と考えられ 皮肉なことに外発的な抑制動機(他者の視線)が強まると 偏見が強化されてしまうという調査結果があるといいます
この アンコンシャス・バイアス こそが
ダイバーシティの実現を阻んでいる要因と私は考えています
アンコンシャスバイアスの代表的な例
【アンコンシャス・バイアス】の悪影響は 個人にとどまらず 組織全体に波及します
特に 組織の長にあたる管理職やリーダーの【アンコンシャス・バイアス】は 企業のパフォーマンスや意思決定に大きな影響を与え 職場全体のモチベーション低下~生産性低下などの深刻な問題に発展してしまいます
正常性バイアス
事態が悪化しても「まだ大丈夫」「自分に被害は及ばない」と楽観的に考えて適切な判断を見失いこと
ハロー効果
好感を抱いた人の言動や考えに 伺うことなく全てを肯定してしまうこと
確証バイアス
自分の信じる考えを補強する情報ばかり集めてしまい 客観的な視点を欠いていくこと
ステレオタイプバイアス
特定の性別や属性 職業などに対する偏ったイメージにもとづいた決めつけを行うこと
権威バイアス
上司や組織の長 特定の肩書を持つ人 インフルエンサーなどの意見は常に正しいと思い込むこと
集団同調性バイアス
所属する集団のなかに存在する『価値観』『行動』に 個人としても影響されてしまうこと
アインシュテルング効果
これまでの考えに固執し 新たな考えを受け入れないこと
相手の『普通』を受入れることだ第一歩
世の中には 人の数だけ『普通』が存在します
自分の『普通』は自分のまわりの『普通』であって 別の所からやってきた人にとっての『普通』と一致しないことが多いでしょう
それぞれが見てきた世界が違うのに『よそ者』『若者』『変り者』に対して 自分たちの『普通』に合わせさせる ことから始めさせている企業が多いように思います
ココロ(脳)は「知らないこと」「分からないこと」に【恐れ】を感じるのは 「どう対応すればいいのか?」「どんな判断をすればいいのか?」ということが分からないからです
これが 自分が「知らないコト」「体験したことがないコト」に対して否定から入る理由です
【現状維持バイアス(status quo bias)】:変化や未知のものを避けて現状維持を望む心理作用のことで 現状から未経験のものへの変化を「安定の損失」と認識し 現在の状況に固執してしまうというもの
そして【現状維持バイアス】から離れられない人と組織では『郷に入っては郷に従え』を唱えて 自分たちの『普通』の正当化を行います
【集団凝集性】:集団に対する帰属意識が高い性質のこと
【集団凝集性】が高いほど 組織の拘束力は高い傾向にありますが 組織が外部と遮断されて 批判的な意見を受入れなくなる【集団浅慮】現象に陥りがちです
【集団浅慮(Group Think)】:集団で合意形成をすることによって かえって不合理な結論や行動を引き出してしまうこと(例:会議で異論を出しにくい雰囲気など)
【集団浅慮】状態の組織に『よそ者』『若者』『変わり者』を投入しても【対立】を生むだけの
これが D&I推進ごっこ です
【『D&I推進ごっこ』を行っている日本型経営企業へのメッセージ】
それぞれの『普通』を認めて 相手の『普通』を受け入れることから始めていますか?
ダイバーシティ戦略での大切なポイント
✅ 多様な個性を持つメンバーを集めて「建設的な意見の対立」を避けはいけない
✅ 組織の『普通』に人を当てはめるのではなく その人の『普通』を受入れることから始める
✅ 『互いに矛盾するがどちらも妥当な二つの命題が存在する』という両義性を認める
上記3点は極めて重要なポイントで 組織メンバーの【大前提】としなければなりません
簡単と思う人もいるかもしれませんが「コレだ」という方法がないので とても難しいことです
✅ まずは【価値観が近い】人材を投入して その組織と違う思考法を導入する
既存組織に新しい人材を投入して創造可能なイノベーションは その既存組織の業務の延長線上にある【持続的イノベーション】創造を目指すことがリーズナブルと考えます
『前例がない』新しい課題に立ち向かうプロジェクト型組織であれば 組織の『普通』が存在していないので ダイバーシティによる創造的摩擦が起こることでの【破壊的イノベーション】が創造しやすい組織体制と考えられます
【知の探索】:ジャズコンボ型組織のプロジェクトで『破壊的イノベーション』を目指す(ジョブ型雇用も視野にいれておく)
【知の深化】:オーケストラ型組織(従来型)で『持続的イノベーション』を目指す
【型】としては こんなイメージで トライ&エラー を繰り返しながら 人事評価制度などのルール・規則は Step by Step で構築していくのがスムーズにいくと考えています
次回は そもそも論ではありますがダイバーシティに欠かせない『働き方改革』という視点でを考えてみます
最後までお読みいただきありがとうございました
【付録】『Birth of Cool』制作時のマイルスの『創造的葛藤』
『クール誕生(Birth of Cool)』
1940年代後半【ビバップ】スタイルとは全く異なる 『アンサンブル』に注目して ノネット(9重奏団)を率いて 作り込まれた音楽を創造したアルバムが 『クール誕生(Birth of Cool)』です
この作品は ギル・エヴァンス リー・コニック ジェリー・マリガン といった白人も参加していて ソフトで優美で夢幻的なアンサンブルを実現しました
当時のアメリカの人種者別社会を考えると マイルスのファンであるアフリカ系アメリカ人層から 白人を雇ったことに対するバッシングは凄かったと想像できますが マイルスは毅然とした態度で 次のように言い放ちます
リー・コニッツみたいに素晴らしい演奏ができるんなら たとえ緑色の肌で赤い息を吐いてようが オレは使うぜ。オレが買ってるのは肌の色じゃない演奏の腕なんだ。
マイルス・デイヴィス自叙伝
ジャズでは珍しい楽器(チューバやフレンチ・ホルン)を交えたホーン・セクションが奏でる『アンサンブル』は 印象派絵画のような繊細なニュアンスとして評価されました
一方 従来のジャズで「当たり前」であった【即興演奏】の含有率が低いことから スリリングなインプロヴィゼーションを求める人には物足りなく感じられ不評でした
ヨーロッパではジャズは文化として評価されていた
マイルスは『クール誕生』制作の同時期にあたる1949年に パリで行われた国際ジャズ・フェスティバルに参加して【ビバップ】スタイルの演奏を披露します(マイルス初の海外公演)
パリでは【ビバップ】の人気が高く ジャズは文化として評価されていて マイルスは大歓迎を受け スターとして扱われ サルトル ピカソ と会ったり 歌手のジュリエット・グレコと恋に落ちたりと大きな経験をします
パリから帰国したマイルスは アメリカでの評価の低さと【厳しい人種差別】の現状と パリとのギャップに心を痛め、薬物中毒に陥ることになります
当時『クール誕生』は 商業的な成功や評価には結びつきませんでした
「帰ってからもずっと落ち込んでいて、そうと気づく前に、抜け出すまでに四年もかかることになるヘロインにとりつかれていた。オレは初めて、自分で自分のことがわからなくなっていた。一気に死に向かって進んでいたんだ。」
マイルス・デイヴィス自叙伝
クール・ジャズは白人演奏家のウエスト・コースト・ジャズへ
マイルスが創造した【クール・ジャズ】は 西海岸のジャズメンに影響を与え 概して正統的な音楽教育を受けた白人演奏家が発展させたようなスタイルを【ウエスト・コースト・ジャズ】として広がっていきます
デイヴ・ブルーベックの『テイク・ファイヴ』はジャズといった枠にとどまらずに ポップ・チャートにもランクインしました
マイルスの『挫折』と『葛藤』は次に何を創造させたのか?
✅【ハード・バップ】の原型を築いたとされる作品『Dig(1951年)』
諸説ありますが【ビバップ】と【ハード・バップ】の違いは 【ビバップ】の激しいソロによるスポーツ感覚ではなく アンサンブルを重視することでより音楽的色彩が多彩になったものが【ハード・バップ】と考えられます
✅ 本格的にモード奏法で作られた作品『Kind of Blue(1959年)』
ジャズ史上最高の名盤です
多少の異論はあると思いますが 音楽好きの中高年は マイルスが【ビバップ】以降のジャズの中心人物 であることは誰もが認めるところでしょう
とくにジャズという音楽にこだわった場合 マイルスだけ聴いていれば その他のジャズはほぼ全面的に必要ない
中山康樹著書『マイルスを聴け』
マイルスのアルバムを時代を追って聴いていけば 自然にジャズ・スタイル変遷の歴史がたどれ 同時にサイドマンであるジャズ・ジャイアントたちにふれられる
後藤雅洋著書『マイルスからはじめるジャズ入門』
『モダン・ジャズの帝王』と呼ばれていたマイルスの『苦悩』『挫折』『成功』の軌跡を調べていけばいくほど
「マイルス・デイヴィスこそが真のイノベーター」であると思い 更にマイルスにハマっていきました
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